”良い実験ノート” の必要最低条件とは

実験条件が辿れない実験ノートは、ラボの財産ではなくただの紙ゴミになってしまいます。

実験ノートをちゃんと書くことは、ラボにいる人にとって本当に大事な・必須のスキルだと思うのですが、 実験ノートの書き方について、(意外なことに)研究室によっては全く教育をしていません。

ぽん、と立派な表紙の高価なノートだけ渡して、書き方を教えていないのはラボの資源を無駄にしているのと同じ。とても勿体無い話です。

大学生の時に所属していたラボでの教育がきちんとしていると、会社に入ってからそのままちゃんと書く習慣が身についている人が多かったです。”一流” と呼ばれる大学ラボ出身の人ほどそういう傾向がありました。毎日、指導者のチェックを受けてサインをもらっていた、という人もいました。

私自身は実験ノートの書き方について大学で習ったことはありませんでした。会社に入ってから周りの人に教えてもらったり本を読んだり、試行錯誤して徐々に経験を積んだ結果、以下のようなことに気をつけてノートを書くようになりました。

私が実験を教えたりして関わっている医学部の大学院生には、以下のようなノートの書き方を伝えるようにしています。参考にしてもらえると良いなあ、と思いながら。

1. 日付は常に西暦年から書く
2. ページを書く
3. タイトル、実験目的、結果、考察を書く
4. 実験ごとにノートを分けない
5. 消せるペンや鉛筆では書かない
6. 何をどうやったか、そのノートを見ればもう一度同じ条件が再現できるように詳しく書く
7. 他の人から読める字で書く
8. 研究指導者にはノートを見ながら説明できるようにしておく

1. 日付は常に西暦年から書く

例1) 20190706  例2) 2019.07.06  例3) 2019年7月06日

”年” の表示がないと、何年前なのか、今年なのかわからないので必ず年を入れます。数ヶ月保管する可能性のあるサンプルに関しても、”年” から書くようにしています。

2019/1/11のようにスラッシュを入れて書いている人を見かけますが、スラッシュの線と”1″の見分けがつきにくいことがあるので、私はスラッシュを使いません。

2. ページを書く

市販の実験ノートの中には、最初から通しページが印刷してあるものがありますので、そういうのを使うのも良いかもしれません。私はラボで購入している KOKUYO Campusノート (A 普通横罫 50枚 ノー205A) に自分でページを書いています(ちょうど一冊100ページになります)。

ページがあれば、同じ条件で繰り返し実験をする際に、

”ノートXX(巻数)ページXXと同じ”と書いて、変更点だけ書いておく、ということができます。

また、保管サンプルの箱にも日付とともにノート巻数、ページ数を書いておくとすぐに探せるので便利です。

また、ある実験について1ページ書いて、その続きをしばらくたってからやる場合、”XXページの続き” と書いています。

3. タイトル、実験目的、結果、考察、次の予定を書く

なんの実験かわかるように、ページの頭にはタイトルを書きます。

目的はタイトルに含めて書く場合がありますが、数年経った後で自分が見る場合を想定してわかりやすいようにしておきます。

結果は膨大な電子ファイルになる場合は保存場所を記入しますが、結果の要約はノートに書きます。また、貼り付けられるもの(キットの取説の重要部分、泳動結果の写真)は全てノートに貼りつけます (テープノリで貼るとノートがでこぼこせずに貼れます)。

結果、考察、次のステップについて書きます。

次のステップ(予定)を書いておくと、自分自身で後から見たときに実験の紆余曲折(流れ)がわかりやすくなります。以前にやった実験の続きをするまでに時間が経ってしまうこともあるのですが、そういうときにも次はどこからやればいいのかわかるように書いてあるとフットワークが軽くなります。

サンプルを廃棄した時や時間が経ってから追記する際には赤字で日付を入れて該当ページに書いています。(捨てたかどうか覚えていなくてサンプルを探し回るのは時間の無駄ですから)

4. 実験ごとにノートを分けない

かつては細胞培養記録とそれを使って実験した記録を分けて書いていたこともあるのですが、結局わかりにくいので一緒のノートに書くようにしています。

1ページで細胞を起こしたら、そのページの終わりまで培養(継代など)の記録を書きます。別の実験を同じ日にしたら、次のページの頭から書き始めます(例えばページ2−3)。

そうすると、次の培養記録は4ページ目から始まるので、”XX細胞の培養 (p1続き)”のように実験タイトル欄に書いています。1週間とか2週間とか時間が経っている場合、無理に1ページ目に書き足すことはせず、新しいページから始めます。

5. 消せるペンや鉛筆では書かない

色々な本やネットでも同様のことが書いてあると思いますが、間違いは線を引いて消して(元々の記載が読めるように)、横とか上とか、近くに書き加えます。

時間が経ってからの修正は日付を入れて赤字で書いています。

実験ノートは綺麗に書くことが目的ではないので、見た目が汚くなっても、修正箇所がわかるようにしておくべきです。

6. 何をどうやったか、そのノートを見ればもう一度同じ条件が再現できるように詳しく書く

ルーチンワークで何回も同じ実験を繰り返す場合、実験ステップをエクセルで書いて、日付、実験時刻、サンプル名を空欄にしたフォーマットを作っておき、それをノートに貼り付けています。

使った試薬の型番、ロット番号も入れておけば、うまくいかなかった時に原因を追求する助けになります。

機械の使い方を教えてもらった時もノートに書きます。次に自分一人でやる時に、わからなくなったところとか設定条件変更部分を書き足します。こうしておけば、誰かに教える場合にそのページをコピーして渡せば良いので大変楽です。

7. 他の人から読める字で書く

実験ノートは個人の所有物ではなく、ラボの共有財産です。暗号解読が必要な文字、人が読めない文字で書かれたものは財産になりません。

8. 研究指導者にはノートを見ながら説明できるようにしておく

未来の自分のためにも、研究指導してくださる先生のためにも、わかりやすく書くことが必要です。「こうしてこうしてこうなった、なので次はこうする」ということがわかるように。

実験条件もはっきりせず、結果も添付されていないノートを見せられてもコメントができないでしょうし、先生をイラつかせるだけです。

それから最後に。

背表紙に巻数とノート使用期間、表紙には巻数、ノート使用期間、自分の所属と名前、連絡先を書きます(どこかに置き忘れた時に届けてもらいやすいように)。

どなたかの参考になれば幸いです。