大学のラボでやる整理はボランティア活動?

「大学はボランティア集団だから仕組みを大きく変えるのが難しい」
と、ある先生が言いました。

大学のラボで整理の仕組みを作ろうとしても、協力を得るのが難しい原因を言い当てています。

でも、それでいいのでしょうか?

1. 大学と企業は安全管理への意識が違う

大学では安全管理や環境への配慮は、そういうことを仕事にしている学内部署任せで、ラボ内部で教育や仕組みづくりをしていこうとする雰囲気がないなあ、と思うことがあります。

そう思うのは、私がコンプライアンス遵守を重視する会社(製薬企業の研究所)で働いてから大学のラボに来たので、比較してしまうからだと思います。

会社では各部署に安全担当者がいて、その人が代表者会議に毎月出席。毎月、担当者からの報告を聞く安全職場会議を上司含めた全員でやって、安全衛生に関する話題で話し合い。

試薬管理システムもあり、試薬の種類や法規制の有無を調べて登録をしてから発注するシステム。全ての試薬にはバーコードが貼られ、毎年、全員が棚卸しをして行方不明試薬がないかどうかチェック。

それ以外にも、試薬の分類について、安全管理担当部署から毎月テストが出題され、義務としてそれを提出することになっていました。

そういうことをしている時間も給料は払われていたわけです。おかげで安全管理・試薬管理の意識が浸透しました。

最初は面倒だと思ったけれど、研究所内で他の人たちが持っている試薬も全部検索できるので、他部署にもらいに行ったり借りて来たり、逆に貸したりして。試薬代節約と他部署とのコミュニケーションに役立っていました。

2. なぜ会社は安全管理教育やシステム構築にお金をかけるのか

考えてみたら、会社は随分お金をかけて社員の教育とシステム作りをしている。それはなぜか。

もし、会社で規制化合物の紛失や盗難が起きたら?
もし、会社から流された廃液が環境を汚染していたら?
そして、事件が外からの情報や内部からの告発で明るみに出たら?

株価暴落。最悪の場合、会社は潰れるかも。そうしたら社員やその家族はどうなるか。
つまり、会社で行われる安全管理教育は危機管理のためなのです。

3. 大学は潰れないからいいのか

大学は潰れることはないでしょうが受験生は減るかもしれません。

ラボは研究停止になる可能性があります。

ラボ整理のシステム作りは学生や大学院生の自主性に任せるのではなく、トップ(組織の長)、そして主要スタッフ主導でやるべきことではないでしょうか。何かあった時には大学や先生方の責任になるのですから。

もちろん、使いやすく整っているところもあり、そういうラボはトップ(研究指導者)が主導して、整理に時間を割くことを許しているから下が動くし、動きやすいのだと思います。

 

先生も学生たちも職員も、第一優先は実験や研究。もちろんそうです。だから、一部の人に負担がかかってその人の研究活動が滞ることがないように仕組みづくりが必要なんじゃないでしょうか。

ダメになってしまった試薬で実験を失敗

私がラボ整理を始めたきっかけについて書きます。

大学の研究室で働き始めて1年ほど経った頃、未経験だった実験をやったところうまくいかず、数回やり直したことがありました。

ラジオアイソトープラベルしたサンプルを電気泳動し、その後ゲルをフィルターに吸着させて、2日間感光。。。なんやかんやで(待ち時間を含め)4日かかる実験です。

うまくいけば横まっすぐなバンドが見られるはずなのに、M字型や台形の、まるで山のような形のバンドが出たのです。

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ラボにあるものを片付けてほしい、と言われる側の場合

どんなに偉い立場の人(教授とか、長いこと勤めている秘書さんや研究者)であっても、定年が来て研究や職務から身を引く時が来ます。

御察しの通り、荷物がそのままだと後の人が困るだけです。そして家に持ち込んだら家族に冷たい目で見られます。

今あなたがラボやオフィスのモノを整理しないでいる理由は以下のどれかに当てはまりますか?

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ラボが片付かない原因が自分以外の人の場合とその対処法

ラボに滅多に来ない人がこんなものを置いているのを、近くのラボで見かけました。

中身がわからないもの(ダンボール箱や袋に入っている)

書類ファイル

DVDやビデオテープ

実験には全く必要ではないこれらのものを片付ける方法について書きます。

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ラボで冷蔵庫内のスペースを割り振る方法

医学や生物系ラボでは必ず何種類かの冷蔵庫・冷凍庫があるのではないかと思います。

研究が盛んなラボではこれらのスペースは足りなくなりがちで、必要に迫られて棚卸しをしたり増設したりしているのではないでしょうか。

先週は筆者のラボで大型冷蔵庫が故障し、中身の大移動をしなければなりませんでした。幸い2日で復旧しましたが、ラボメンバーには「また使えなくなったらどうしよう」という危機感が生じ、モノを整理できたので良かったかもしれません。

このトラブルをきっかけにラボの冷凍庫・冷蔵庫のスペース分配について考えてみました。

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ラボにある実験に使わないモノを整理する簡単な3つのステップ

実験に使わないのに、なぜかラボに持ち込まれてしまうモノを整理する方法について書きます。

 

どのようなものがあるかと言うと、

  1. 段ボール箱
  2. 古い専門書、専門雑誌
  3. 2年以上前の実験用品カタログ
  4. 学会でもらったボールペンや冊子、製品キャンペーンのおまけ

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ラボで整理が進まない原因は家の場合と似ているが対処法は異なる

誰も使っていないのに捨てられない。

家でもラボでも、モノが捨てられない原因は一部似ているところもあります。でも、全く同じというわけではありません。まあ、生活する場所と職場では使うものが違うので当たり前といえばそうなのですが。

整理が進まない原因が共通と思われるモノを、家にあるもの → ラボにあるもの  という順に並べてみました。

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15人のラボで実践済みの試薬整理方法

下記の方法を15人のラボメンバーがいるところで実際に試しました。このラボの状況として、毎年2人から3人大学院生が増えていますので、冷蔵庫のスペースは慢性的に不足しています。

整理した結果、冷蔵庫内の共用試薬を置くスペースが半分以下に縮小できました。なお、試薬整理はメンバー全員が揃う時間、定期ミーティングやセミナーの後にやると良いです。

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研究の邪魔をするかもしれない15のモノ

研究には”モノ”が必要だけれど、スペースや時間、体力は有限。

モノがありすぎで整理が行き届かない研究室は研究者の気力・体力・時間を奪います。

整理ができていない場所は使いにくく、在庫の管理もしづらく、モノを元に戻しにくく、イライラしてストレスがかかるし人間関係にも悪影響を及ぼします。

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はじめに:ラボにとってなぜ整理収納が重要なのか

このサイトでは研究室(ラボ)について整理収納の側面から考察した記事を書いてこうと思います。

ラボ整理研究室ショウボのプロフィール

私の研究テーマはラボの整理収納です。なぜ不要なものがラボに滞留してしまうのか、それをどのようにして取り除いていけばいいのか、そして必要なものをどのように配置・収納していけば良いか、ということを手を動かしながら考えています。

私は数年前まで製薬企業の研究者でした。その後医学部の大学院研究室で5年間働いていました。医師であり、研究者でもあるドクターを実験面からサポートする仕事です。現在は国立研究機関で働く研究者を実験面でサポートしています。

整理収納アドバイザーとしてはラボ・研究関係専門のアドバイザーとして研究者オフィスの整理収納をお手伝いしたり、企業研究所など法人のお客様からのご相談を受けてコンサルティングや講演もしています。(2020年9月更新)

ブログを始めたきっかけ

歴史の長いラボには古いもの、不要なもの、使わなくなったものが残され、必要なものを置く場所が足りなくなっていました。また、使えなくなっているものをとっておいたが故に研究が停滞する(つまり実験がうまくいかない、ありえない変なデータが出る)ことを経験してきました。

家庭や企業(オフィス、工場)では整理や収納を適切に行うことが様々な面でプラスに働くことが認識されています。これらの場所における整理収納についての考え方や方法を記した書籍は書店の実用・家庭コーナーやビジネスコーナーで何冊も見つかります。しかし研究室に関しては私の知る限り報告が見当たりません。

ラボは新しいものを生み出すための場所です。新しい技術や製品、またそれらの元になるようなアイデアを検証する場所です。今世の中にある薬や、病気の治療法は過去の研究の成果です。さらに新しい薬や治療法、新しい技術を生み出すために、研究者には創造的な活動(思考や実験)に長く時間を割くようにして欲しく、不要なもののために時間を割く(例えば探し物とか)ことは最小限であってほしいと私は思います。

そうするためには、ラボに適用可能な整理収納方法論や視点が必要と考え、ラボ整理研究ジャーナルを始めることにしました。

読んでくださる方にお伝えしたいのは、整理収納を適切に行うことで研究を活性化できる、ということです。少なくとも、使えなくなった試薬や、誰かが置いて行った不要なモノのせいで貴重な研究時間を取られることはなくなります。

読者の方に役立つようなことを書いていけるよう、続けて行きたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。